今回は、クレーの授業を知るための本を紹介します。彼は、基礎教育期間の造形に関する授業をカンディンスキーとともに受け持っていました(ハンネス・マイヤー学長の頃には、1学期目がカンディンスキー、2学期目にクレーの授業をとるというカリキュラムになっています。その当時は、彼らは他に自由絵画クラスも受け持っています)。日本人のクレー好きを反映して、日本ではクレーに関する本が非常に多く出ているのですが、彼の教育内容についても、非常に参考になる本が(これまた現在入手が難しいのですが)出ています。
7-1『教育スケッチブック』
パウル・クレー著 利光功訳
中央公論美術出版:1991年
4,300円 ISBN:4-8055-0222-3
バウハウスにおけるクレーの授業内容を紹介した本。実際の講義で行った授業内容を本人が整理し直し、簡潔に、図を中心にまとめたものなので、この本を手に取る人は、想像力を最大限に働かせて、クレーと共に造形宇宙を散歩しなければなりません。もう少し説明が欲しいという方には、次に紹介する『造形理論ノート』とあわせて読むことをおすすめします。
バウハウス叢書第9巻にはカンディンスキーの授業をまとめた『点と線から面へ』があり、両者を比較するのも面白いでしょう。どちらも初心者のための造形の基礎を扱いながら、それぞれの個性が強烈に表れており、どれだけ違う授業だったかが窺えます。
7-2『パウル・クレー手稿 造形理論ノート』
パウル・クレー著 西田秀穂訳
美術公論社:1988年
5,250円 ISBN:4-89330-081-4
クレーは整理魔で、自分の作品を付番してノートに付けていたことは有名です。そのクレーが授業をやるわけですから、講義草稿が残っているわけです。かくして、私たちは、クレーの手書きのテキストと図を原本そのままに読むことができるのです。
この本は、前半はファクシミリ印刷によって、クレーの講義ノートをそのまま掲載し、後半にその文字部分の日本語訳を載せています。講義でクレーが説明したであろうそのままの文章です。講義と実習を交互に繰り返しており、授業の終わりに次回の実習課題がだされ、その次の講義の最初に「前回の課題は難しかった」というコメントまで入っています。
この貴重な資料によって、1921/22年の冬学期、1922年夏学期、1922/23年の冬学期という3学期間のクレーの授業を追体験することができます。
またしても現在流通していない本ですが、図書館で探してみてください。
7-3『クレーの手紙』
パウル・クレー著 南原実訳
新潮社:1989年
書簡集。奥さんや友人宛の手紙の中に、時折バウハウスでの授業の話や造形思考の一端をかいま見ることができます。イッテンのユニークな授業を妻リリーに報告したり、バウハウスでのさまざまな騒ぎをユーモラスに表現したり。教育に関する彼の発言を探してみるのもよいでしょう。
これも絶版ですが、図書館にあります。
その他、以前紹介したバウハウス展のカタログ6-1『バウハウス50年』、6-3『bauhaus1919-1933』,6-5『バウハウス ガラスのユートピア』等にも若干クレーの授業内容についての記述がありますので探してみてください。